早春
2013年3月8日

早春という言葉がすきでした。
雪国に生まれ育ったわたしにとって、「春」とは特別な季節。
早春という言の葉の響きは、心を灯すやわらかな光となって、きらきらと輝いていたものです。
思えば早春に咲く花は、不思議なくらい黄色ばかり。
すいせん、マンサク、福寿草… 中でも「あたたかな春」を感じる菜の花。
いまこそ心に鳴らしたいと思う唱歌は、「朧月夜」

 

    菜の花畑に入り日薄れ 見わたす山の端かすみ深し

    春風そよふく空を見れば 夕月かかりてにおい淡し
    里わの火影も森の色も 田中の小径をたどる人も
    かわずの鳴く音(ね)も鐘の音も さながら霞める  おぼろ月夜 

 

ふるさとに降り注ぐ、春の日差し。
田畑がひろがり、霞のかかった山の端に夕日がさして、やがてゆっくりと暮れてゆく。
美しい国、日本の風景を再現しているのが唱歌ではないでしょうか。

 

四季を繊細に感じとれる、日本人ならではの美しい言の葉。
その中に、自然をたたえ、生物を慈しむ心なくば、決して生まれることはなかった言の葉です。
ひるがえって今、花曇りと呼ばれた空を黄砂やPM2.5や花粉が飛び交い、
早春は、愉しむ季節から警戒する季節と化してしまいました。

 

人間が長きにわたり自然を犯してきたツケを、わたしたちは重く受け取らなくてはなりません。
少なくとも、次の世代に残したくはないと思うのです。
残してあげるべきは、唱歌の中にあるような風景…美しい日の本の姿。
いちめんに咲く菜の花畑に蝶が舞うー  これが早春の風景だよって言えるようにー

 

      美しきこの国憂うかなしみや 澄しあの日の唱歌浮かびぬ

 

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