松屋から、四季折々の情景をお伝えします。

夏の想い出
2012年8月28日

ふるさとの想い出はいつも、山と川、そして必ず四季折々の花と共に甦ります。
夏の花といえば、ひまわりが代表選手のようなものですが、わたしの夏の想い出に登場するのは
「タチアオイ(立葵)」。
今も八月のはじめ、祖父母のお墓参りをする際、その傍らに咲いてやさしく迎えてくれます。
ひまわり同様、夏の陽射しをうけながら空に向かって咲いている花ではありますが、本来は、
入梅の頃、すっくと伸ばした茎に薄紅や白の花をつけます。
雨の多い季節、太陽を慕うように咲き続ける姿が古来賞美された所以でありましょう。
歴史的仮名遣での葵は「あふひ」と書くので、「逢ふ日」と掛詞になり、和歌にも好まれました。
枕草子では、

 

葵、いとをかし。神代よりして、さるかざしとなりけん、いみじうめでたし。もののさまもいとをかし。

 

とあり、源氏物語「藤袴」にも、

 

心もて 光にむかふ あふひだに 朝おく霜を おのれやは消つ

 

とあります。
蛍兵部卿宮に求愛された玉鬘が、
「自分の心から光の方を向く葵でさえ、朝に置く霜を自身で消すことなどできましょうか」と、
思うに任せぬ我が身を訴えた、哀れ深い歌です。成長して美人ゆえの苦悩を経験する玉鬘なれど、
もともとは陽性の人柄、葵の花のイメージがよく似合います。

 

ちなみに、八万年前の地層から発掘されたネアンデルタール人の骨を調べたところ、
遺体の胸にタチアオイとアザミの花束が飾られていたことが判明したとか…。
永きにわたり、人類に愛され続けてきた花なのです、ね。

 

ジージーゼミの鳴く声を聴きながら、たくさんのタチアオイが咲く中、子猫のように小さな背中を丸め
鬼に見つからぬよう、息をひそめて隠れていた夏。
やがて、カナカナカナ…という儚げな蜩の音に、ちょっぴり淋しくなった夏休み最後の日ー

遠い、遠い…夏の日の想い出です。

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